柳ヶ瀬情話  第拾話

 当店のお客様ですが、
一昨年の定年を機に、趣味で小説書いたから
読んでほしいと言われました。
三十数年間飲み歩いた柳ヶ瀬をこよなく愛し
お店のマスター、ママ、スタッフさん等から
色々な話を聞いたそうです。
それを参考にはしたが、あくまでフィクションだそうです。
実在する会社、組織、組合、グループ、個人、団体等
一切関係ありません。
関長下府生氏の許可を得て発表しました、
なお、著作権は太夢多夢が帰属するものとする。


 
柳ヶ瀬情話 第壱拾話   著 関長下府生
〜霊感はないけど〜
 場末のスナック「MATMAT」から
風鈴の音が、リ〜ン リ〜ン リ〜ン
「季節感を出そうとしている
努力は認めるが毎年同じではねー。」
軽い口調は
スナック「ウイドー」のママ・エミブー、
もちろんニックネームである。


マスター梅林の 古くからの友人、
彼がSnack「薄化粧」の
新人バーテンだった頃からの付き合いだ。
シホブーは繊維会社に就職したが、喫茶店のウェイトレスになり、
夜の世界に入り スナックのママに成り早19年
水商売では王道を行く、筋金入りのおばさんだ。


「おはよう〜ス」 梅林はチョコンと頭を下げた。
お水の世界では、夕方から今日中は、おはようである。
「夏だねー、去年も風鈴!今年も風鈴かぁ。」
「いいの、気は心、それより店開ける時間だろ。」
「気がめいちゃってさ、一杯ちょうだい。
  ジム・ビーム、トニックウォーターで割って。」
シホブーの話しは続く。


「昨日不思議なことがあってさー、
カウンターの奥に女性グループ、
中ほど男性三人、
入り口近くに常連二人居たの。」
「おっ、忙しくていいねー。」
マスター梅林は相づちを打つ。
「女の子たちは柳ヶ瀬で偶然会って
 久々に(ウイドー)に行こうって
 ことになったらしいのね。」


ここまで話すと、
エミブーは両手でグラスを
包むように持ち一口飲んだ。
「私注文を聞き間違えたの。」
「珍しいこともあるな、
 ウェイトレスの時から注文だけは、
 聞き間違えたことなかったのに。」
「だけはって何よ。」
エミブーは笑みを浮かべて言い、
グラスを傾けた。


「水割り二杯、ハイボール、ウーロン割り、ロックって
確かに聞いたのに、
ロックは頼んでないって言われたのよ。」
「えっ。」き、聞いたけど・・・思いながらも、
「ごめん、ごめん、おばさん間違えちゃった。」
笑顔で頭をかく真似したの。


「いいわよ〜ママ。
 後で水割りにして飲むから
 そこに置いてって。」
と、一番奥の席に置いたのよ。


会話にカラオケ、他の席の男性と
デュエット、
かなり盛り上がってね。
楽しかったんだけど、
またミスをしたの。


女性ってお勘定、キッチリ割り勘にするでしょ。
「合計がこれだから、五人割だとこうなります。」
って、伝票出したら・・・
「ママ、ヤダー。私たち四人よ。」
えっ!そう、確かに四人なの。
でも・・・、
私、何を勘違いしたのかなと思いながら
計算し直したの。


彼女達が帰った後
片付け終わって、確か5人いたよねーって
他のお客さんに聞いたら、
酔ってるから分からないって言うのよ。
でも一人の常連さんが
「五人居たような気がするなぁ〜。
 一番奥の席、ほらっ、ロックグラスのある・・・」


えっ。
片付け忘れたのか、そこにロックグラスが。
追い討ち掛けるように、
ピンク電話が『リーン!!!』 
びっくりしたわよ。
恐る恐る受話器を取ると
さっき帰った女性グループの一人、
「もしもしママ、今思い出したの、
 今日さー、昔よく一緒に行っていた
 かおりの命日なのよ。
 悲しくなるからママには、言わなかったけれど
あの子いつもロックだったでしょう。」


受話器置いて、このことを
他のお客さんに伝えたら
「四人が偶然 柳ヶ瀬で出会ったのも、
 彼女が呼んだのかな」だって。


「不思議なことがあるものだねぇ〜。
  エミブー 霊感あったかー。」
「ないわよー、あったら あんな飲んだくれと
  一緒にならないって。」
「それは関係ないと思うけど。」
「話したらすっきりした、さー、店開けよっと。」


エミブーは大股で薄暗くなった、ネオン街に消えていった。
マスター梅林 空を見上げる、と
流れ星がスーと
あれも誰かの命か・・・。     おしまい