柳ヶ瀬情話  〜七話〜

 当店のお客様に、趣味で小説を書いてる方がいまして

三十数年柳ヶ瀬を飲み歩き、去年停年退職し

「小説書いたから読んで〜」と 時々持ってこられ

当人の了解を得て、ここに掲載させてもらいます。

 なお、あくまでフィクションですので、実在の個人名、会社名

団体、グループ名 等、一切関係ありません。<柳ヶ瀬情話 第七話   著 関長下府生
甘くないカクテル
 飲み屋街の路地裏「MATMAT」は、女性スタッフを使わず
夫婦でやってるせいか、アベックや夫婦づれお客さまも
少なからず。


本谷ご夫妻もお一人での来店は一度もない。
お二人とも弁護士、初老の素敵なカップル。
面白いことに、奥様の晩酌にご主人様が付き添ってるのだ。


「本谷先生はウーロン茶ですね、美似先生は?」
「そうねぇ、甘くないカクテルがいいな。」


マスター梅林の数少ないメニューの中から
ソルティドック、オレンジ・ブロッサム、前回出したよな、ん〜
「モスコミュールはどうでしょう。」
「もう一声」と美以先生。
「じゃあ、ジンリッキー!」「それ、いこっ!」
 ジン1/4・ライム適宜、炭酸3/4、ステアー、カランコロン。


カクテル出す店少なくなったねーと本谷先生。
居酒屋のカクテル、どの店も同じ味みたいな
気がするんだけど、と美似先生。


「だけど、梅ちゃんのは同じのを頼んでも
日によって味違うよねぇ。」と、悪戯っぽい眼をした。
それを言わないで下さいよ〜、カクテル得意じゃないんだから。


本谷先生、カラオケの分厚い本をめくりながら
「昔のバー、スナックはシェイカーの音が
当たり前のように聞こえたよな。」  と、ポツリ。


今みたいに、カラオケもなかったし
有線とジュークボックスと会話 だから、
店の女の子も話題豊富じゃないと売れなかったなあ。
「うっそ〜!そのころから若い女の子が好きだったんでしょ。」
「それもある、かな。」  ははっ・・軽い笑い、
仲の良い二人だ。


「バーテンも、カクテルの五つや六つできたし、
手品、マッチを使ったゲームやクイズ、
色々とやりましたヨ。」


「カクテルを売り物にした店も少なくなったね。」と、本谷先生。
「番番館のマスターなんて、今や伝説ですよねー。」
「岐阜のカクテルの神様みたいな人だったなぁ。」  
ラウンジROKOの井手マスターも、
snack薄化粧のママも、クラブかた田の・・・
みんないなくなちゃったね。
本谷先生寂しそうに言う、うなずくマスター梅林。


「くら〜い!昔のことウジウジと。私、歌うー
梅ちゃんおかわり、次、シンガポールスリングねーっ。」
あいよ〜!
「おいおい、飲みすぎだよ。」
「いいの〜、飲んでやる、歌ってやる、今夜は酔うぞー!」
「今夜はって、いつもじゃん」
「あ〜 あんなこと言ってる、梅ちゃん!ジンバック
いや、ギムレットにしようかなー。」


アルコールの強いのだけは、やめてくれ〜。
頭 抱えて本谷先生。
いつものことながら、微笑ましい光景だネェ。