柳ヶ瀬情話 独りよがり小説・著 関長下府生

当店のお客様に、趣味で小説を書いてる方がいまして

三十数年柳ヶ瀬を飲み歩き、去年停年退職し

「小説書いたから読んで〜」と 時々持ってこられ

当人の了解を得て、ここに掲載させてもらいます。

 なお、あくまでフィクションですので、実在の個人名、会社名

団体、グループ名 等、一切関係ありません。



 柳ヶ瀬情話 独りよがり小説・著 関長下府生

     〜たそがれちゃって〜

  飲み屋街の裏路地に昔風スナック「MATMAT」がある、

マスターの梅林はパソコンを

たどたどしい手つきでいじってる。

決して暇つぶしのオモチャとして買ったのではない、

これからは場末のスナックでも必要なのだ。と、

自分に言い聞かせて、

由紀美ママの横顔をチラッと見た。

  梅村は自転車で長良川を一回りしてから

店に入るのが、日課だ。

大縄場大橋から上流へ、忠節橋金華橋を経て

河原町、ギャラリー元浜さんを左に見て

和菓子の玉井さん、娘が結婚式を挙げさせてもらった

十八楼さん、今年新しくたった鵜飼船待合室。

ホテルパークさん(忘年会でお世話になりましたね。)

鵜飼い大橋を渡り下流へ、岐阜グランドホテルさん

すぎ山旅館を右手に、

準備中の鵜飼船を左手に、

心地よい風を受けながら長良橋渡り

柳ヶ瀬をめざす。

しかし、きょうは長良橋手前、ホテル石金さんの前で

ブレーキをかけた。

「あっ!〇熊さんだ。」

長良川の階段にぽつんと座ってる男性に声をかけた。

「たそがれちゃって、どうしたんですかー!」

彼は振り向き、力のない笑顔を見せた。

普段着の〇熊さんは、初めてのことだった。

紺色のスーツに地味なネクタイが彼のイメージである。

県警のえらいさん、らしいが、

彼は自分を語らないし店側も聞かない、

それでいて二十数年来のお客様だ。

〇熊さんとの出会いは、

「MATMAT」に女性スタッフいたころ

大雨で困っている彼女に傘をさしかけ、

そのままお客になり

常連になったのだが、仕事は教えてくれなかった。・・・が、

マスターがテレビのニュースを見ていると

手入れだろう、

映画さながらに十数人の男が会社の事務所に

ドカドカと入っていくその先頭が〇熊さんだった。

マスター梅林、「見つけたー!」テレビ指差し叫んだが、

なぜだろう?

珍しいとこで会いましたねえ〜

〇熊の横に座りながら言った。

彼は長良川の流れに目を止めたまま

淋しそうにポツリと語り始めた。

すぐ前のホテルで五年ぶりの同窓会があり

会うのを楽しみにしていた親友の死を聞かされ、

それも、二年も前だ。連絡ミスなのだろうか、

「それとも・・・」、

長良橋の下からもうすぐ夕日になるだろう

強い日差しが、彼の言葉をさえぎった。