柳ヶ瀬情話  第三話〜助けられちゃった〜


当店のお客様に、趣味で小説を書いてる方がいまして

三十数年柳ヶ瀬を飲み歩き、去年停年退職し

「小説書いたから読んで〜」と 時々持ってこられ

当人の了解を得て、ここに掲載させてもらいます。

 なお、あくまでフィクションですので、実在の個人名、会社名

団体、グループ名 等、一切関係ありません。




柳ヶ瀬情話  第三話

〜助けられちゃった〜

飲み屋街の路地裏にスナック「MATMAT」がある。

今日は珍しく早い時間からお客さんがいる、

建築会社「DEIKU・NO・安田」の社長である。

昔は綺麗なお姉さんのいるお店から

焼肉屋だの寿司屋だのへて

「MATMAT」へ、たどり着くと午前2時、3時だった。

のが、バブル崩壊とともに

飲み方も変わったし飲み物も変わった。

以前はコニャックだのアルマニャックだの、

ゴテゴテ飾りたてた、派手な瓶のブランディーしか飲まなかった。

それがいつの頃からか、日本のブランディーになった、

彼のなかにはブランディー神話みたいなものがあったのだろうか。

それが今はサントリィー角瓶だ。

きっかけはマスター梅林が

サントリィー角瓶をチビチビやってるところへ、安田が来店。

「へ〜柳ヶ瀬にまだ角瓶を置いてる店があるんだ。」

梅林は一瞬ムッときたが、

気を取り直し「あっ!安さんもどう、旨いよ。」

と、・・・ロックグラスに氷二つ三つ入れすすめてみた。

角瓶は、トクットクッ耳ざわりの良い音を奏でた。

彼は一口飲み、

「うまい!昔、大工の小増のころは年に1〜2回飲めたかなぁ、

それも棟梁と一緒のときだったよな。」

そう、40年前はサントリィー角瓶はスターだったなぁ〜。と、

ポツリ・・・

「想い出話し聞きたくて、電話くれたのか?」と安田。

見てくださいよ、トイレのドアを開けた。

便器が二つに割れていた。

「どんな使い方したら、こんなことになるんだ。」

「助けてくださいよ〜。」と、

マスター梅林は、困り果てた顔をしていた。

安田は会社の事務所に電話をかけ

しばらくすると「ン十万以上かかるんだと。」

エ〜そんな大金ないヨ、

今の柳ヶ瀬の飲み屋はそんなものである。

現状維持、家賃を払うだけが精いっぱい

それすらままならない店が、

どれだけ辞めていったのだろう、さみしい限りである。

「しかたネェナ〜、長い付き合いだし

手間賃なしで、俺がやってやるよ!」

  「え〜、できるの」

「昔から社長業じゃねぇよ、元は大工の棟梁だ!」

「かかった金は、立て替えてやる

月々返せよ。」

次の日現れた安田社長は、アルマーニのスーツではなく、

ニッカポッカ、地下足袋に脚絆、タオルのハチマキ。

現場に行くって言ったら、女房が出してくれた。

さぁー!やるかと腕まくり。 

助けられちゃった!

サントリー角瓶のおかげかも、ネッ。